生活保護まとめ | 銀行口座調査

生活保護まとめ

生活保護の申請時や、生活保護受給者に対する資産調査の一環として「銀行口座調査」というのがあります。
ケースワーカーが銀行に調査依頼をして、その銀行から口座情報を提供してもらう仕組みです。

 

調査権限

そもそも福祉事務所は、金融機関に対する調査権限というものを持っておらず、あくまでも「調査依頼」という形になります。
その「調査依頼」に銀行側が協力してくれているに過ぎないので、もし銀行側が拒否すれば調査不能という事です。

生活保護法 第29条に基づく調査権限は『本人(要被保護者)以外の者に報告を求めることができる』というレベルの「弱い権限」であり、第29条は調査対象の範囲を定義したに過ぎません。
一番やっかいなのは第28条です。

生活保護法 第28条に関しては記事後半で解説します。

生活保護法
第29条(資料の提供等)
保護の実施機関及び福祉事務所長は、保護の決定若しくは実施又は第七十七条若しくは第七十八条の規定の施行のために必要があると認めるときは、次の各号に掲げる者の当該各号に定める事項につき、官公署、日本年金機構若しくは国民年金法(昭和三十四年法律第百四十一号)第三条第二項に規定する共済組合等(次項において「共済組合等」という。)に対し、必要な書類の閲覧若しくは資料の提供を求め、又は銀行、信託会社、次の各号に掲げる者の雇主その他の関係人に、報告を求めることができる。

 

昔の預貯金調査

昔は銀行の各支店1件1件に手作業で調査依頼していたようです。
たとえば那覇市民からの保護申請で、かつ保護申請者が沖縄銀行(全支店数約50件あり)の利用者なら、那覇市エリアの約20支店だけに絞って調査依頼を行ったりしていたようです。
全ての銀行の全支店に調査依頼するなんて現実問題として不可能なので、そりゃ絞り込みする(という現場サイドの工夫で乗り切る)しか無いですよね。
しかも規制が緩かった当時は、残高だけではなく『お金の流れ(異動明細)』まで銀行から聞き出していたようなので、まるで警察並みの預貯金調査でした。

平成24年09月28日中野区議会決算特別委員会の会議録

篠国昭 委員
伊藤政子 健康福祉部副参事(生活援護担当)

○篠委員 収入の申告漏れを防ぐため、厚労省は、全国銀行協会の協力を得て、ことし12月から生活保護の申請者やその家族の持つ金融機関の口座を各銀行の本店で一括照会できる仕組みを導入するということでございますが、まず、現在の預貯金の調査はどのように行っておられますか。

○伊藤健康福祉部副参事(生活援護担当) 現在、生活援護担当では、新規申請時及び保護開始後におきましても、生活状態の変化、また、不正が疑われるような場合などに、生活保護法に基づきまして、すべての預貯金の報告を求めているところでございます。本人から申告のありました金融機関の口座につきましては、本人の了承を得て、文書により金融機関に対して口座の有無と残高及び異動明細の報告を求めております。

○篠委員 本人の了承を得てという流れじゃない流れが、相続税等では必ず行われるんですが、全部閉まっちゃうんですか。亡くなられた方の口座はですね、ありとあらゆるものが。そういった厳しい流れとはやっぱり違う流れの中で構築されているんですか。

○伊藤健康福祉部副参事(生活援護担当) 私ども福祉事務所には、強制的な調査権がございませんので、預貯金の調査、それから資産調査、あらゆるものに関しまして、原則的に本人の了解を得ております。同意のものがございませんと、相手方の機関から回答を得られない状況でございます。

○篠委員 現在も中野区では、本店一括照会できる、実施をしている銀行はありますよね。

○伊藤健康福祉部副参事(生活援護担当) 御質問にございましたすべての全銀協の加盟銀行の一括照会は12月からでございますが、今、先行しまして、ゆうちょ、それからみずほ、三菱東京UFJ銀行につきましては、本部に問い合わせをすれば、全店照会ができるような仕組みになってございます。

○篠委員 本店一括照会というのはどういう仕組みか、そこをちょっと具体的に説明してください。

○伊藤健康福祉部副参事(生活援護担当) この仕組みは、福祉事務所が銀行の指定する本店や本部などに、対象者の氏名や生年月日を知らせることによりまして、当該金融機関の全支店について、口座の有無と残高が調査できるという仕組みでございます。なお、この調査につきまして、どのような本人同意をどのような内容で取るかということに関しましては、現在、東京都のほうで国と調整をしているところでございます。

○篠委員 そのほかに、この調査ではできないという部分はあるんですか。異動明細の調査とか……。

○伊藤健康福祉部副参事(生活援護担当) 今、支店ごとに文書で照会している場合、今行っている調査では、すべての異動に関して明細書の報告をいただけますが、この本店一括照会では、残高のみの御回答はいただけるということでございます。

○篠委員 現在の調査と比べて、どのような効果が期待できると思われますか。

○伊藤健康福祉部副参事(生活援護担当) 現在は、本店一括照会ができない銀行に関しまして、本人の申告に基づきまして、一支店ごとに文書を出しております。本人の申告と支店名が違いますと「該当なし」ということになりまして、再度調査をいたしましてやるという、非常に煩雑な状況でございます。今後、すべての全銀協に加盟している金融機関に関しまして、本店一括照会ができるということになりますと非常に事務が効率化されますし、適切な預貯金の調査ができるというふうに期待しております。

○篠委員 大変期待が持てるんですが、調査に本人の同意が必要ということですが、これはなぜでしょう。また、同意を得られない場合は、調査しないということは、残るんですか。

○伊藤健康福祉部副参事(生活援護担当) 先ほども少しお話ししましたが、強制的な調査権がないということのために、本人同意が基本でございます。なお、資産の状況を明らかにするというのは義務でございますので、どうしても同意を得ないと、同意をしないということが起きましたら、指示書というものを出しまして、厳しく指導いたします。その上で、なお応じないということであれば、保護廃止、保護を受けられないという対応をすることもございます。

○篠委員 対抗措置も持っているというふうに受けとめられるんですが、ですけど、政治家の資産開示みたいに、正しいのかどうか、ちょっと怪しい……。「私はこれが資産です」といった、さらに厳しい切り込みというのは想像しがたいんですが、どのようにお考えですか。

○伊藤健康福祉部副参事(生活援護担当) 開示することを義務付ける、強制的にさせるということは現在の生活保護法ではできませんので、法改正が必要になるというふうに考えております。

○篠委員 難しい場面も残ると思うんですが、努力を期待したいと思います。

生活保護法施行令(昭和25年政令第148号)
第3 官公署等に対する資料提供の求め等に関する事項
1 改正の趣旨及び内容
法第4条第1項において、保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われるとされている。
このため、法においては、福祉事務所が保護の決定又は実施のために要保護者及びその扶養義務者の資産及び収入の状況を確認するための調査権限を定めているところであるが、不正受給対策をより実効あらしめるため、次のとおり福祉事務所の調査権限の強化を図ることとしたものであること。(新法第29条)
(1) これまで、法第29条の調査権限の内容については、要保護者の「資産及び収入の状況」が定められていたが、要保護者に対する自立に向けた更なる就労指導、要保護者の生活実態の把握や保護費支給の適正化を確保するため、健康状態や求職活動の状況等を追加すること。
(2) 法第29条の調査目的について、保護の決定及び実施に加え、新法第77条及び第78条の費用等の徴収を加えるとともに、調査対象者について、これまでの「要保護者及びその扶養義務者」に加えて、「過去に保護を受給していた者及びその扶養義務者」も対象とすること。
(3) これまで法第29条に基づく調査を行った場合に、回答が得られないことにより、保護の決定又は実施に支障があるとの課題があったことから、法別表第一に掲げる情報については、官公署等に調査に対する回答義務を設けること。
2 留意事項
1と併せて、改正政令において、生活保護法施行令(昭和25年政令第148号。以下「令」という。)を改正し、新法第29条第1項第1号に基づき、保護の実施機関又は福祉事務所が官公署等に資料の提供等を求めることができる要保護者又は被保護者であった者に係る政令で定める事項について、支出の状況を定めることとしたこと。(改正政令による改正後の令(以下「新令」という。)第2条の2関係)
これは、特に金銭管理が困難である被保護者については、その適正な保護の決定、実施等の観点から、銀行等の金融機関で保有している当該者の預金残高からの支出に関するもの等、その支出の状況に関する情報について把握する必要がある場合があることから規定するものであること。

 

本店等一括照会

平成24年12月以降は【本店等一括照会】が可能になり、銀行の事務センター等に調査依頼するだけで、その銀行の全支店の情報を一括提供してもらえるようになりました。
そして昔の預貯金調査では可能だった『お金の流れ(異動明細)』が照会不可になり「口座の有無・調査時点の残高」の2点だけしか調査できなくなりました。
ちなみに本店等一括照会は『銀行毎の個別調査』であって、日本国内の全銀行(の全支店)を一括で調査できる訳ではありません。



平成24年9月14日 社援保発0914第1号 厚生労働省社会・援護局保護課長通知【改正案】
全国銀行協会取りまとめ平成24年5月30日付事会第34号

 

世帯員一括照会

さらに平成26年9月30日以降は『同一世帯の世帯員(全員分)』の口座情報まで一括調査できるようになりました。

生活保護関係全国係長会議資料 平成28年3月4日
平成25年9月30日付け事務連絡

 

調査依頼書

ちょうど改元に伴う通知が発出されていたので最新の『調査依頼書』を掲載しておきます。
この調査依頼書に【調査対象者に関する情報(世帯全員分)】【同意書(その1)】を添付して銀行に照会を行います。
【同意書(その1)】はこの為の書類なので、保護申請時には必ず提出すべき書類でもあります。



令和元年5月27日社援保発0527第1号厚生労働省社会・援護局長保護課長通知

 

年1回の銀行口座照会

まず「銀行口座照会」と「銀行口座調査(資産申告)」を区別して理解しておく必要があります。

【銀行口座照会】
生活保護受給者に対しては「年1回の口座照会が行われる」という噂が流れていますが、べつに定期的に口座照会が行われる訳ではありません。あくまでも福祉事務所が「必要があると認めるとき」に口座照会が実施されるだけです。
ですがこれは『いつでも口座照会が出来る』という事実の裏返しでもあります。

ここで問題になるのが『必要があると認めるとき』の定義です。
『必要があると認めるとき』の定義は明文化されていないので、ぶっちゃけ【担当者の気分次第】というのが現実です。

一般論としては『合理的な理由が必要である』と考えがちですが、その『合理的な理由』が本当に必要になるのは法的に争った時のみです。
実際に【受給者vs行政】という法的ガチンコ勝負の状態になるまでは、ケースワーカーには『合理的な理由』を明示する義務は無い訳です。

【銀行口座調査】
審査請求:提出した時点で半分負けが確定』で難儀している私(Hiro)の個人的な見解としては「12箇月ごとの定期的な資産申告(銀行口座調査)は事実上の義務(強制)」だと考えています。
巷では「定期報告は義務ではない」「厚労省副大臣が明確に否定した」「義務を果たさないことだけをもって保護の停廃止を行うことは想定していない(厚労省答弁)」といった『受給者側に都合の良い解釈』が拡散されているようですが、福祉事務所は指示に従わない者に対して、生活保護法 第28条によって【申請却下】【保護停止・廃止】という超強力な罰を与えられる訳ですから、どう考えても『事実上の義務(強制)』としか言いようがありません。

具体的な定義をしないまま現場任せで問題を放置している厚生労働省が諸悪の根源です。
現行のままでは受給者とケースワーカーが対立関係になってしまい、両者ともに被害者と化してしまいます。

平成27年3月31日社援保発0331第1号厚生労働省社会・援護局保護課長通知

2019年4月1日施行 生活保護実施要領等
問13 局第3において、要保護者に資産の申告を行わせることとなっているが、保護受給中の申告の時期等について具体的に示されたい。
答 被保護者の現金、預金、動産、不動産等の資産に関する申告の時期及び回数については、少なくとも12箇月ごとに行わせることとし、申告の内容に不審がある場合には必要に応じて関係先について調査を行うこと。

生活保護法
第28条(報告、調査及び検診)
保護の実施機関は、保護の決定若しくは実施又は第七十七条若しくは第七十八条(第三項を除く。次項及び次条第一項において同じ。)の規定の施行のため必要があると認めるときは、要保護者の資産及び収入の状況、健康状態その他の事項を調査するために、厚生労働省令で定めるところにより、当該要保護者に対して、報告を求め、若しくは当該職員に、当該要保護者の居住の場所に立ち入り、これらの事項を調査させ、又は当該要保護者に対して、保護の実施機関の指定する医師若しくは歯科医師の検診を受けるべき旨を命ずることができる。

生活保護法
第28条(報告、調査及び検診)
5 保護の実施機関は、要保護者が第一項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、若しくは立入調査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は医師若しくは歯科医師の検診を受けるべき旨の命令に従わないときは、保護の開始若しくは変更の申請を却下し、又は保護の変更、停止若しくは廃止をすることができる。

 

預貯金調査の限界

いくら本店等一括照会が可能になったとは言え、日本国内には100行以上の銀行があります。
そして生活保護受給者数は約210万人だそうです。

全銀協の会員一覧

「生活保護」に関する公的統計データ一覧|国立社会保障・人口問題研究所

人手不足な福祉事務所が、全受給者の口座調査を全銀行に対して年間1回以上実施するなんて物理的に不可能です。
しかも調査に協力している銀行は民間企業です。そんな膨大な数の照会を実行されたらそれこそ迷惑な話ですし、生活保護制度のためだけに人件費を割ける訳がありません。
やはり「昔の預貯金調査」のように「あるていど銀行を絞って調査する」というのが現実的です。

ちなみにケースワーカーは、ゆうちょ銀行は必ず調査するそうで、受給者に馴染みのある地域や、戸籍の附票を見て照会先(銀行)の絞り込みをするそうです。
これはあくまでも噂にすぎませんが、なかなか信憑性のある噂だと思います。

戸籍の附票を見れば転居履歴が把握できます。

 

銀行口座調査まとめ

・福祉事務所による預貯金調査はいつでも可能だが、乱発できるほどの余力は無い。
・預貯金調査で把握できるのは「口座の有無・調査時点の残高」の2点だけ。
・預貯金調査の対象者は「世帯員の全員」だが、扶養義務者に対する強制力は皆無。
・馴染みの無い他府県の銀行にまで口座調査を行う可能性は極めて低い。
・現行法では電子マネーや仮想通貨は調査対象外(ただし税務調査は可能)
・後ろめたい事が一切無いなら資産報告には素直に応じるべきです。無駄にケースワーカーと対立する必要は無いです。

以上「銀行口座調査まとめ」でした。

※本記事には「困窮者側からの一方的な見解」が含まれております。出来る限り正確な情報を掲載したいので匿名でも構わないので福祉関係者による参加・監修をお待ちしております。